金曜日、仕事終わりの開放感!
平日はまっすぐ家に帰り、夕食の支度や朝にやり残した家事を片付けないといけない。でも金曜日はちょっとだけ、寄り道を自分に許すことにしている。
金曜の終業後、前から行ってみたかった雑貨店に立ち寄ることにした。事前にショップのインスタで、どのようなテイストのお店か、どんなものが並んでいるかは調査済み。
会社の最寄駅の、いつもとは反対側のエリアにあるショップ。地図アプリがあるからなんとかたどり着けるだろう。
いつもとは違う街の表情に戸惑う
18時を回ってあたりは薄暗い。
バーや飲食店がひしめく賑やかな高架下を進み、店の並びが途切れたあたりで線路下のトンネルをくぐる。
するとそれまでの賑やかさが嘘のように、人通りがぱったりと途絶えた。
普段は駅と職場の往復で、駅の反対側に位置するこちらのエリアに足を踏み入れたことはない。
『今日はやっぱりやめようかな・・・』
自分の知るいつもの街とは、まったく違う顔をした異空間に足を踏み入れた気がした。
人気のない暗がりで “非日常” を楽しむ心の余裕はなく、とりあえず少しでも明かりのある方へと足早に歩を進める。
ほどなく別の商店街が見えてきたときには、『助かった!』と心底ホッとした。砂漠にオアシスを見つけたキャラバン隊の気分だ。
駅近くの喧騒と比べると、お世辞にも賑わっているとは言えない静かな夜の商店街。
お目当のセレクトショップは、その通り沿いに静かに佇んでいた。
お目当のショップで気まずい雰囲気に・・・
ガラスの重い扉を開けると、カラカラン♪ と軽い音色の鈴が鳴る。
おもむろに、店の奥からニットキャップを被ったオーナーらしき男性が現れた。
ショップの中には自分と男性のふたりきり。さっと店内に視線を泳がせたが、やはりほかのお客はいない。
・・・まずい。これは自分のもっとも苦手とする状況ではないか。
基本人見知りのせいか、お店の人と一対一になると、自分のペースでショッピングに集中することができなくなる。
たとえ相手がレジで仕事をしている風でも、『まさか何も買わずに出ていかないよね?』という無言のプレッシャーを感じて上の空になるのだ。
『今は一刻も早くお目当のニットを見つけてこの店を出よう。』
ところが残念なことに、自分が探していた “シンプルだがひとひねり効いたニット” は店頭には見当たらなかった。
来店の一番の動機を失って、次はどうやって穏便に店を出ようかと、その思いばかりが頭の中をぐるぐる駆け巡る。
欲しいものがない(焦)、その時に。買い物リストをスマホに備えよ
実はそんな時のために、「今足りないもの」リストに加えて、「素敵なものがあれば買ってもいいもの」リストをスマホに控えていたことを思い出した。
そこにリストアップされていた物のひとつに娘のお箸があった。
今彼女が使っているのは幼稚園の頃に買った子ども用の箸。もう中学生にもなるのに買い替えなきゃね、とリストに入れていたのである。
『あ、そういえば。』
入り口近くのテーブルにディスプレーされていた色とりどりの作家ものの食器。一緒に添えられていた、塗りの箸があったことを思い出す。
急いで入り口まで引き返し、そのうちの一膳を手に取った。
それは天辺から真ん中までが朱色で塗られた木製の箸で、全体がわずかに細く、箸先も細めで使いやすそう。
シンプルだが和のテイストが感じられる素敵なお箸だった。
こちらを娘用に求め、それまでのモヤモヤした気持ちはどこへやら、スッキリした気分で私は店を出た。
スマホのメモに残しておいた買い物リストのおかげで、その場しのぎの適当な物を買わずに済んでよかった。
もちろん、娘に「かわいい!」と気に入ってもらえたことも。
この箸一膳にたどり着くまで、どんなドキドキや心の葛藤があったかなんて、娘は知る由もないのだが。