実家の5段飾りと我が家の小さなお雛様
桃の節句まで一ヶ月を切った。
リビングの作り付けキャビネットから、ピンク色の小さな箱を取り出す。
片手でひょいと持ち上げられる軽さの箱に、台座、屏風、ぼんぼり、そして小さなお内裏さまとお雛様が収まっている。我が家の超コンパクトなひな祭りセットだ。
この雛人形一式を買ったのはいつのことだろう。
和雑貨屋さんの店先で見つけた小さなお雛様。通常の雛人形の三分の一ほどのサイズ感に、思わず目が釘付けになった。
お内裏さまとお雛様の衣装はちりめんでできており、雑貨のようにカジュアル過ぎず、大人の鑑賞にも耐えられる品の良さが感じられた。
一瞬、実家の和室の押入れに長い間仕舞い込まれた五段飾りのセットが脳裏をよぎる。動きの硬い段飾りの骨組を、毎年苦労して組み立てていた、若き父親の姿も。
本当は、我が家があのひな壇セットを引き取るべきなんだろう。
だが、実家の押入れに眠る巨大なダンボールの箱を思うと、その決心は中々つかなかった。
小さなお雛様を愛でる娘に感じる成長
代わりにやってきた手のりサイズのお雛様は、今でも母娘の大のお気に入りだ。
娘がもっと小さい時は、お友だちの家で見た段飾りがいいとぼやかれたこともある。
そのたび、できるだけコンパクトに暮らしたいという私の趣味趣向のために、娘に少なからず感受性の目を摘むような負担を強いているのでは?と胸が傷んだ。
いやいや、でも、あともう少し。もう少し時間が経てば、娘もこの雛人形でよかったと思ってくるはず。
そう自分に言い聞かせて、毎年この小さなお雛様を精一杯愛でてきた。
「大きなお雛様がよかった」とすねた娘も4月で中学生。ここ何年かは、手のりサイズの雛人形をリビングに見つけると、「かわいいよね〜」としばしうっとり眺めて自分の部屋に戻っていく。
この人形のかわいさを、思い立ったらすぐに飾れる気軽さを、娘もわかってくれる年齢になったのだ。
ここまで大きくなってくれたことに感謝しつつ、我が家らしい “小さな” お雛様をこれからも大切にしよう。